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トピックス

旅する喫茶店 Vol.08

土壁やレンガの壁が繁華街の喧騒を遮断する

釧路の盛衰を知る
隠れ家的純喫茶

仏蘭西茶館
(北海道・釧路市)

根室線特急列車で釧路駅に着いた頃には、もう夜もとっぷりと更けていた。駅を出ると、霧とも小雨とも分からない湿った空気がシャツを濡らした。時折響いてくる低音は、霧笛(むてき)だろうか。乗降客が去った駅前は寂しい。ひとり旅の私は、人恋しさにさいなまれ、繁華街へ向かった。コーヒーでもと歩いていたら、雑居ビルの入り口で「仏蘭西茶館」の看板が地階へ誘っていた。

シャンソンが流れる店内で、ゆっくりとコーヒーを落としていた主人は鈴木克衛(かつえ)さん。店を開いて46年になる。創業当時は真っ白だったという壁は、タバコの煙で煤(すす)けたのか茶色に。石室のような重厚感を醸し出していた。テーブルやイス、ライトなどはアンティーク調。地階で窓が乏しいことも手伝って、隠れ家の趣だ。純喫茶を謳(うた)うだけあって、釧路で初めて出したというウインナコーヒー(550円)などメニューはオーソドックス。パフェ(700円)は酔客にも人気とか。

「このあたりは釧路一の繁華街だけど、ずいぶん静かになったね。以前はデパートもあって、買い物客や従業員がよく寄ってくれたけど」と少し寂しそうな鈴木さん。「漁船が港を埋め尽くす光景も見られなくなった」と言うが、市の中心部では再開発が決まり、新しい釧路の街づくりが進んでいる。半世紀近く釧路を見てきた主人と話し込むほどに、時にはこんなひとり旅もいいなと思えてきた。

   

文・写真/渡辺貴由

                
店名はフランスの小説家、フランソワーズ・サガンをもじったという
                
釧路で初めて出したというウインナコーヒー
                
パフェは食べ応え十分
仏蘭西茶館
北海道釧路市末広町5-5 末広ビル地下1階
TEL.0154・22・9666
営業:11時〜24時/不定休
交通:根室線・釧網線釧路駅から徒歩10分
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