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トピックス

旅する喫茶店 Vol.02

ナラ材の長机が置かれた店内。勉強の邪魔になるので音楽は流さない

カルチェ・ラタンの
カフェの香り

進々堂
(京都・左京区)

学生や旅人と喫茶店の相性はいい。時間を持て余し、行き場に困った学生たちや、訪れた町を歩き疲れた旅人たちは、進々堂(しんしんどう)のような静かな店で束の間の休息をとり、次の一歩を踏み出す鋭気を養う。

平日の朝、店内にはすでに数人の客がいて、ノートや本を広げ、コーヒーを飲んでいる。窓の外に今出川通りを隔てて京大が見え、時おり学生が行き過ぎる。補修を繰り返した内装はほぼ開業時のまま。年季の入ったランプシェードやカウンター、詩人ワーズワースの英詩のレリーフ、後の人間国宝の木工家・黒田辰秋(たつあき)が手がけた長机が、黒く静謐(せいひつ)な光を放っている。

開業は昭和5年、内村鑑三門下の詩人だった続木斉(つづきひとし)は、パリに留学してパン作りを学び、帰国後にパン屋とカフェを開いた。「学生が集まるカルチェ・ラタンのカフェを京都に作りたかったようです」と、ひ孫にあたる店主の川口聡さんは言う。店はそれから80余年、町を見守り続けてきた。「店そのものが生きていると感じる瞬間があります。黒田さんの机に座って、ゆっくりほっこりしてほしい」。

店内は時が止まっているかのよう。その静寂が温かい。焼き立てパンとミルク入りコーヒーで腹ごしらえしてから扉を開け、京都の町を歩き出した。

            

文・写真/福崎圭介

名物のカレーパンセット830円。朝食やランチに
進々堂 京大北門店
京都市左京区北白川追分町88
TEL.075・701・4121
営業:8時〜17時45分LO/火曜、年末年始休
交通:京阪鴨東線出町柳駅から徒歩15分
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