

新旧カヤバのインテリアが融合した店内。2階は座敷席
谷中の町が育て
受け継いだ一軒
(東京・台東区)
谷中霊園のそば、上野桜木交差点に、その店はある。2階建ての出桁(だしげた)造りの町家は存在感を放ち、谷根千(やねせん)散歩の目印と休憩にちょうどいい。扉を開けると、意外にもモダンな照明やテーブルが並び、店員もメニューもあか抜けている。
大正時代1916年築の建物は壊される予定だった。昭和初期の1938年に榧場(かやば)伊之助さんが創業した「カヤバ珈琲店」は、その養女で店員の幸子さんが2006年に亡くなったのを機に閉店。建物解体の話が出て、町の人たちから店の再開を望む声があがった。NPO法人たいとう歴史都市研究会と、近隣のギャラリーSCAI THE BATHHOUSE(スカイ ザ バスハウス)が協力して建物を借り受け、2009年に復活した。いわば谷中の町が約80年にわたって育て、受け継いだ喫茶店なのだ。
革張りソファとレンガ造りのカウンターは旧カヤバのもの。塩コショウだけで味付けした玉子焼きを挟むたまごサンド、コーヒーとココアを注ぐルシアン…… 昔の名物メニューは、常連からレシピを聞いて再現した。三陽食品の寒天など、地元商店の食材を使うのもこだわり。
この店には音楽がない。「町の音を聞いてほしいので、昼はあえてかけていません」とスタッフ。朝の日差しが差し込む静かな店内で、「町の音」に耳を傾けながら、熱いコーヒーを飲んだ。
文・写真/福崎圭介


東京都台東区谷中6-1-29
TEL.03・3823・3545
営業:8時〜20時LO(土曜は〜17時30分LO)/無休
交通:山手線日暮里駅または地下鉄千代田線根津駅から徒歩10分
